遍路用品の話
さて、四国に行くというのは決まりましたが、持ち物と装備の事を考えないといけません。
距離にして約1200km、所要期間45日程度とされる長丁場、無策では越えられません。
いろいろ必要な物はありますが、まずは遍路用品の話から。
装備品
遍路というと白装束に菅笠という出で立ちを思い浮かべる方もいると思いますが、ルールとして定められたという意味では決まった格好があるわけではなく、実際にはハイキングのようなスタイルという方も多く見かけました。
私はというと信心からやるわけではないというのもあって、実用度が高いと見聞きした金剛杖と菅笠だけ装備することにしました。
遍路であると見分けてもらえる格好をしておくのは良くも悪くも意味があったのではと思います。
金剛杖
「同行二人(どうぎょうににん)」という言葉があります。
遍路という修行の道を、弘法大師と共に行くという意味合いです。
弘法大師の化身と考えられているのが金剛杖。
木製の杖で、上部は塔婆の形状になっています。
現代日本においてはそれほどの覚悟はいりませんが、かつては命懸けの修行だったという面があり、道中で死亡したときにそのまま塔婆として使う、あるいはそれだけの覚悟で臨んでいるのだという意味を込めているといいます。
実用面からいってもかなり重要なアイテムで、三本目の足とは行かないまでも足2.5本になるぐらいの効果はあったのではと思います。
特に山道ではおおいにお世話になりました。
とはいえ使っていない人も多く、代わりに登山用のストックを持っている人もいました。
歩く道の殆どは舗装された路面なので、それを念頭に杖を用意するかストックにするか、あるいはまったく持たないかという選択をすることになるのかなと思います。
私は一番札所の前にある遍路用品の店で後述の菅笠と一緒に購入しました。
塔婆部分を覆うカバー付きで¥1250。
けっこう大きなものなので飛行機では機内持ち込みは出来ないようですし、私も四国を出てから少々取り扱いに難儀しました。
八十八番札所では奉納することもできるようです(他の札所では不明)。
菅笠
頭に被るやつです。
晴れの日は日よけに、雨の日は雨よけに大活躍します。
・・・という触れ込みなのですが、日よけは日差しの強い時期でないと効果がないのと、雨の時もせいぜい顔までしか守れないので、あって困ったものではないですがないといけないというものでもないかなと。
ただ、杖を使用しているとそれで片手が塞がってしまうのでその上で傘をさすというのはつらそうです。
札所に限らず、寺社仏閣では本来脱帽するのがマナーですが、菅笠は法具の一種と解釈するのでそのままでよいそうです。
ビニールのカバーがついていて、これが雨の時には必要なパーツ。
杖と同じ所で¥1700で購入しました。
また、着用時にはあご紐を使いますが、手先の不器用さにかけては相当なものである自覚があったので、菅笠用の補助具を使いました。
こちらは事前調達です。
白衣
私は使いませんでしたが、伝統的な遍路の装束として使われる白衣(びゃくえ)。
袖なしのものを笈摺(おいずる)と言うようです。
歩きでこれを着ている人は意外と多くない印象でした。
装備品選定のご参考まで。
装備品以外
ここまでは身に付けるものの話でしたが、それ以外にも遍路に必要なアイテムが各種あります。
これまた正式なものを追求するとキリがないので使ったものを紹介するにとどめます。
納経帳
御朱印帳の一種と考えていただければよいのではと思います。
四国八十八ヶ所においては専用のものを用います。
遍路は「回る」というところが他の巡礼と大きく異なると言われていて、何周もする人がいます。
一周目は納経帳に墨書きをして朱印を押すという一般的な御朱印の姿ですが、二度目以降は一周目と同じページに朱印だけ追加で押すことになっており、これを「重ね印」といいます。
(これを避けて毎回新しく納経帳を用意する人もいるようです)
そういった事情もあってか、大きさも紙の質も一般的な御朱印帳とはだいぶ様相が異なります。
特にノーマルサイズの納経帳は御朱印帳の倍ぐらいの大きさがあり、通販で買ったのですがこれは失敗だったなと。
結局、小さいサイズのものを改めて購入することになりました。
遍路用品を扱う店は四国に限らず存在するので、実物を見て買うほうがイメージとの乖離がなくていいと思います。
四国まで手に入らなくても、一番札所で取り扱いがあるのでそこで調達するのでもよいのでは。
納札
札所、あるいは弘法大師に関連する寺院(少なくとも京都東寺と高野山では見かけました)に行くと、お堂の賽銭箱の横あたりに「納札入」という箱があります。
ここに納める紙の札を「納札」といい、日付と住所、名前や願意を記入するようになっています。
「お参りしました」ということを本尊や弘法大師に伝えるという意味を持つものだそうです。
古くは紙ではなく薄く削った木の札に願意を書き、これをお堂や山門に打ち付けたのだといいます。
これが元で、札所で参拝することを「打つ」と言うようになったのだとか。
また、「お接待」(これについてはおいおい触れます)を受けた際にもお礼に渡すことになっているほか、遍路の名刺代わりに使われることもあるようで、納札を交換したという話も聞きます。
納札入れ自体はオープンな箱なので、取り出すことも簡単にできることから、不届き者が納札を漁って書かれている住所を利用してセールスを行うという事例もあるようなので、住所は細かく書かないほうがよいとされます。
私の買ったものには住所を細かく書くスペースはありませんでした。
札所においては本堂と弘法大師を祀った大師堂という2つのお堂にそれぞれ納めることになるので、88かける2で最低176枚必要になります。
私は200枚用意して数枚余る感じでした。
線香とローソク
札所の参拝手順は概ね以下の通りです。
- 山門前で礼拝して入門
- 鐘をつく(禁止のところがあるのと、誰もつかないのでやっていいのか心配なところも)
- 手水を使う
- ローソク台に献灯
- 線香立てに献香
- 賽銭と納札を納める
- 読経
- 4~7を本堂と大師堂で行う
- 納経所にて納経帳への記入をお願いする
ここでローソクと線香が必要になります。
私はいずれも100均で買ったものを持って行きました。
ローソクは本堂と大師堂で一本ずつ計176本、線香は3本ずつ献香するのが作法だそうなので計528本必要になります。
線香は簡単に折れてしまうので持ち運びの最中に幾つかロスが出ました。
これらは道中で容易に補充できるので、全量持っていく必要はないでしょう。
100均にこだわらずともコンビニやスーパーで手に入ります。
私は以下の様な形で補充しました。
- 約70本入りのローソクとバラ入りの線香を一箱事前に用意
- 十番札所門前でローソクと線香のケースを購入(ケース内に多少入っていた)
- 三十五番札所を過ぎたところ(高知県土佐市内)の100均でバラ入りの線香(約380本入との記載あり)を追加
- (記録が残っていないので不明:高知県内だとは)どこかで約70本入のローソクを追加
- 八十三番札所の先、香川県高松市の100均で同じくローソクを追加
火をつけるライターも必要です。
こちらは事前に持ち込んだ一本で事足りました。
経本
これまで参拝したお寺はいっぱいありますが、そこでは合掌礼拝ぐらいのものでした。
今回はせっかくなのでというところもあって、読経もすることに。
そこで必要になるのが経本と数珠。
ただ数珠に関しては宗派違いのものしか持っていない(四国の札所は基本的に真言宗)ので、持って行きませんでした。
読経に関しては正しい手順というものはないようで、そもそもしない合掌礼拝だけの人から般若心経だけ読む人、いろいろでした。
私は遍路用品の店でもらった資料にあった下記の手順で読経しています。
- 開経偈
- 懺悔文
- 三帰(3回)
- 三竟(3回)
- 十善戒(3回)
- 発菩提心真言(3回)
- 三摩耶戒真言(3回)
- 般若心経
- ご本尊真言(3回)
- 光明真言(3回)
- 御宝号(3回)
- 回向文
般若心経以外はそれほど長い言葉ではないですが、これだけあるとそれなりに時間もかかるもので(特に慣れない序盤のうち)、さらに本堂と大師堂それぞれ(大師堂では9. のご本尊真言はない)で唱えることになるので「一札所30分ぐらいはみておいたほうがいい」という各種の資料にあった通りの時間はかかったように思います。
これまた176回は唱えるので札所によって異なるご本尊真言はともかくそれ以外は勝手に覚えてしまいますが、覚えていても経本を手に読経するのが正式な作法だとか。
必要な物を選ぶということ
積載量に限りのある歩き遍路では、何を使って何を使わないかという選択が大事です。
納経帳と同じように朱印と墨書きを白衣(道中では着ないもの)にもしてもらい、納棺の際に着せる(あるいは着る)というものや、掛け軸に書いてもらい、表装して家宝にするというのもあるといいますが、白衣はまだしも掛け軸まで持ち歩くのはあまり現実的とは思えません。
この辺は車など荷物が積める移動手段前提のものになるのではと。
また、一番札所を筆頭に遍路用品を扱う店も道中にはちょくちょくあるので、最低限を準備していき、必要を感じたところで必要な物を買い足すというのがよさそうです。
「こうでなければならない」というのがない懐の広さが今日まで遍路という文化が続いているひとつの理由でもあるように思えるので、自分にとって必要な物を選ぶ、一つの参考になればと思います。